今週は追い風と向かい風が同時に来た週でした。需要側では、アニメ・キャラクターグッズが「放映と同時に海外で売れる」構造になっていることと、訪日旅行が越境ECの入り口として機能している実態を示すデータが揃いました。一方で制度側では、6月から7月にかけてベトナムとインドネシアで新しい規制が相次いで効き始め、世界では小口輸入の免税制度の廃止が進みSheinの香港上場話にまで波及しています。「安く大量に飛ばす越境」から「商品力と正規性で選ばれる越境」へ土俵が動いた週、と要約できます。越境セラーの実務に関わる変化が多いので、後半の規制セクションまで目を通すことをおすすめします。
アニメ・キャラクターグッズが「放映と同時に」売れる時代に
Shopee Japanが7月17日に公開した解説は、日本コンテンツ商品の売れ方の変化をよく整理しています(Shopee Japan)。鍵は映像配信サービスの普及で、アニメが国内と海外でほぼ同時に視聴されるようになった結果、最新作のグッズ需要も放映と同時に海外で立ち上がるようになりました。「日本で流行ってから輸出する」のではなく、放映スケジュールがそのまま海外の商戦カレンダーになっています。
この需要の土台は数字でも確認できます。日本動画協会の速報値によると、2024年のアニメ産業市場は3兆8,407億円(前年比114.8%)で過去最高を更新し、うち海外市場は2兆1,702億円(前年比126.0%)と国内市場(1兆6,705億円)の約1.3倍。産業の成長を牽引しているのは明確に海外です(日本動画協会)。コンテンツが海外で視聴されるほど、グッズの需要はその先に生まれやすい構造です。
マーケット別では、マレーシアで「鬼滅の刃」「ワンピース」関連が販売実績を上げており、台湾はアニメグッズが他マーケットと比べて特に人気のカテゴリーとされています。売れ筋の型は4つ:
- フィギュア・ぬいぐるみ: 高値がつきやすく、日本限定品・過去アイテムはプレミア価格になりやすい
- トレーディングカード: ポケモンカードを筆頭に継続的な需要
- 日用品系(キーホルダー、Tシャツ等): 購入ハードルが低くリピートにつながりやすい
- ゲームソフト: 日本限定タイトルや過去ハードがコレクター層に刺さる
実務面の注意も具体的です。コアなアニメファンほど商品知識が深く偽物はすぐ見抜かれるため、正規品であることの担保が生命線になること。商品タイトルには英語(台湾は繁体字中国語)で「アニメタイトル名・キャラクター名・グッズの種類」を明記すること。先週のトレンドウォッチ第1号で取り上げたベイブレードXの大人ブームも、この「日本コンテンツ×コレクター需要」の文脈に連なる動きです。
「訪日」がそのまま越境ECの入り口になっている
もう1本、需要の構造を考えるうえで重要なのが7月13日公開のインバウンド消費と越境ECの関係の整理です(Shopee Japan)。経済産業省・観光庁のデータに基づく内容で、数字はこうです。
- 2025年の訪日外国人は4,268万人、旅行消費額は9兆4,559億円
- 帰国後も日本商品をリピート購入したいと答えた訪日客は8割以上
つまり日本旅行で商品を知った外国人が、帰国後に越境ECで「買い続ける」導線がすでに太く存在します。帰国後に買われやすいのは、スキンケア・化粧水・日焼け止めといった消耗品、食品、日用品 — 旅行中に使い切りサイズで試したものを、帰国後に定番として買い直すパターンです。フィリピンではShopeeが月間訪問者数3,324万人で最大のプラットフォームであり、マレーシア・シンガポール・台湾でも日常的に使われているため、「日本で見た商品をShopeeで探す」動きの受け皿は揃っています。
セラー視点では、この導線を意識した商品ページ作りが効きます。訪日客に売れている定番(ドラッグストアコスメ、菓子等)は「日本で買ったもの、また欲しい」の検索で指名買いされるため、正式な商品名・ブランド名表記の正確さがそのまま発見可能性になります。あわせて同コラムはチャット応答率がShopeeの検索順位に影響することにも触れており、リピート需要の受け止めには運用品質も効いてきます。
セールカレンダー: 次の山は8.8
7.7ミッドイヤーセールの結果と各プラットフォームの設計の違いは先週のトレンドウォッチで整理した通りです。次のダブルデーは8月8日の8.8セール(シンガポールはナショナルデー商戦と重なる例年の型)で、その先に9.9からのQ4商戦が控えます。年間の山の全体像は常設のセールカレンダーにまとめているので、8月の在庫・価格計画の下敷きにしてください。なお2026年の8.8の個別公式発表はまだ確認できていないため、カレンダー上は「例年パターン」の扱いのままです。
Shopee、InstagramとYouTubeを「味方」に——TikTok対抗の外部連携
プラットフォーム側の動きでは、Shopeeが7月上旬、Metaとの提携拡大を発表しました。既存のFacebookアフィリエイトプログラムをInstagramにも広げ、クリエイターがリール・フィード投稿にShopee商品をタグ付けし、購入成立でコミッションを得られる仕組みを、シンガポール・マレーシア・タイ・インドネシア・ベトナム・フィリピン・台湾・ブラジルの8マーケットで展開します(eCommerce News Asia)。Facebook側の実績はすでに大きく、2026年3月時点で世界500万人超のクリエイターがShopeeのアフィリエイトプログラムに接続済み。Instagram側の参加条件はフォロワー1,000人以上からと報じられており、2024年のYouTube提携、直近のOpenAI連携に続く布石です(Asia Tech Review)。
狙いは明白で、動画起点の買い物体験を武器に伸びるTikTok Shopへの対抗です。TikTokが「自前のコンテンツ×自前のEC」を垂直統合しているのに対し、Shopeeは外部の大手SNSと組んで水平に同じ体験を再現する戦略を取りました。セラー視点では、Shopeeのアフィリエイト経由流入が今後はInstagram/Facebookからも来るようになるため、クリエイターに紹介されやすい商品画像・レビューの整備が従来以上に効いてくる変化です。
規制の7月——ベトナムとインドネシアで新ルールが効き始めた
今週の実務ニュースの主役は制度です。6月から7月にかけて、東南アジアの2大市場で新しい規制が相次いで効き始めました。
ベトナム: 新EC法が7月1日施行。 2025年12月10日に国会を通過した新しい電子商取引法が施行されました(Viet An Law)。越境セラーに関わる柱は次の通りです。
- セラーの本人確認義務: 登録情報(氏名・住所等)を国の登録と一致する形で公開する
- 本人名義口座の使用義務: 取引には本人の銀行口座しか使えず、当局が資金の流れと納税を捕捉できる形になる
- ライブコマース規制: プラットフォームは配信者の本人確認と、配信の音声・映像データの保存(検査用)が義務化。商品品質の虚偽主張は禁止
- 外国プラットフォームへの義務: ベトナム語や.vnドメインを使う外国プラットフォームは現地法人設立か代表者の指名が必要。ベトナムに拠点が無い場合は補償・納税担保のための供託も求められる
背景には市場の急拡大と偽物対策があります。分析会社Metricの2025年通年レポートによると、主要4プラットフォームの流通総額は約160億ドル(前年比約35%増)でShopee 56%・TikTok Shop 41%の二強寡占が続く一方、セラー数は7.5%減の60万1,800店と、取り締まり強化ですでに淘汰が始まっています(Vietnam Investment Review、データはMetric調べ・2026年1月時点の報道)。ベトナムの勢力図の詳細は単独記事にまとめています。
インドネシア: Permendag 19/2026が6月8日施行。 商業省の新省令が旧規則を置き換え、越境セラーには相当に厳しい内容になっています(Nusantara DFDL、法律事務所の解説)。
- 国産品の優先表示: プラットフォームは検索結果の最上段に国内商品を表示する義務。越境商品はアルゴリズム上、国内商品より下位に置かれる
- 越境セラーの登録要件強化: 事業許可証の公証、製品規格の証明、銀行情報、インドネシア語の商品説明、出荷国の明示が必須。書類不備の登録はプラットフォーム側が拒否しなければならない(裁量なし)
- 1商品100米ドル(FOB)の最低価格ラインが維持(例外リストは未公表)
- 既存セラーの事業者登録(NIB)取得には18ヶ月の猶予
税制も同時に動いています。7月1日からはマーケットプレイスが国内セラーの売上から所得税(PPh22)0.5%を源泉徴収する義務を負い、年商5億ルピア未満のセラーは免除されます(CNBC Indonesia)。同報道は、過度な価格競争(プライスウォー)の禁止と手数料・控除のコスト透明化義務、そしてSNSアプリが別ライセンスなしにアプリ内決済でEC機能を持つことの禁止にも触れています。
国内の零細・小規模事業者向けには、マーケットプレイス手数料を50%引き下げる支援策も政府主導で進んでいます(ANTARA News)。対象はインドネシア国内の登録事業者に限られます。「国内は優遇、越境はハードルを上げる」方向が制度として明文化された、と読むのが正確です。
セラー視点では、この2カ国は「何もしなくても売れ続ける市場」ではなくなりつつあります。ベトナムは本人確認・納税捕捉が効く分、正規に構えるセラーには公平になっていく可能性がある一方、インドネシアは低単価の越境販売が制度的に閉じられていく流れです。市場選定の前提として頭に入れておきたい変化です。
越境の潮目: Shein香港上場へ——「免税枠の時代」の終わり
中国発の低価格越境ECにも構造変化が来ています。Sheinは8月下旬にも香港市場への上場を目指しており、想定時価総額は400〜500億ドル — 2022年時点の1,000億ドル評価から半減しました(Inside Retail Asia)。ニューヨーク、ロンドンと上場先を模索して規制の壁に阻まれ、香港が「最後の選択肢」になった経緯です。
背景として見逃せないのが小口輸入の免税制度(デミニミス)の相次ぐ廃止です。同記事によると、米国は2025年5月に中国発の免税措置を、8月には全ての国からの免税措置を終了し、中国から米国向けの小口輸出はおよそ3割減。EUも150ユーロの免税枠を廃止し、7月1日から品目ごとに3ユーロの手数料を課しています。「安い小口を大量に飛ばす」モデルへの逆風は世界的な流れで、東南アジア各国の低価格輸入規制(前段のインドネシア$100 FOBライン等)も同じ文脈にあります。価格ではなく商品力・正規性で選ばれる方向へ、越境ECの土俵そのものが動いています。
短信
- 本紙のセールカレンダーは「確定/例年」の区別で運用しています。8.8以降の2026年個別公式発表を確認でき次第、順次「確定」へ更新します
先週号はこちら。木曜のトレンドウォッチ第2号では、今週拾いきれなかったバズ商品側を深掘りします。
